↑

ブログBlog

ホテルライクな注文住宅。視線を設計するという考え方

ホテルライクな注文住宅。視線を設計するという考え方

図面には描かれない、「そこから何が見えるか」

間取り図は、上から見た平面の情報です。部屋の広さ、動線、収納の位置。それらは図面で確かめられます。けれども実際に暮らしはじめてから気になるのは、平面ではなく視線の話であることが少なくありません。
リビングのソファに座ったとき、正面に見えるのが隣家の外壁だった。ダイニングの椅子から、廊下の奥の洗面所とタオルが見えてしまう。玄関の扉を開けたとき、最初に目に入るのが階段の裏側だった。どれも図面上は何の問題もなく、むしろよくできた間取りに見えるものばかりです。
家の印象は、面積や仕様ではなく、目に入る景色の積み重ねで決まります。私たちが設計の初期に必ず確認するのは、その場所に立ったとき、あるいは座ったとき、視界に何が入るかということです。ここを後回しにすると、素材や照明にどれだけ費用をかけても、落ち着いた空間にはなりません。

ホテルライクの正体は、見えるものが選ばれていること

ホテルの部屋に入ったとき、多くの方が「片づいている」と感じます。けれども実際には、ホテルの客室が住宅より物が少ないわけではありません。リネン、備品、配線、設備。必要なものは同じようにあります。違うのは、それらが視界に入る位置に置かれていないことです。
ホテルライクな空間とは、豪華な空間のことではありません。見えるものと見えないものが、設計者によってあらかじめ選別されている空間のことです。壁の一面には素材の表情を見せ、その反対側には何も見せない。廊下の突き当たりには光や絵を置き、その手前にある扉は壁と同色にして消す。この取捨選択が、あの静けさをつくっています。
住宅でこれを再現するには、竣工後に家具を工夫するのでは間に合いません。壁の位置、開口の位置、造作の奥行き。すべて設計段階で決まるものだからです。ホテルライクな家づくりが結局は設計の話になる理由は、ここにあります。

まず、道路からの視線を切る

京都の市街地で家を建てる場合、敷地は道路や隣家に近く、条件は決して恵まれていません。ここで最初に決めるのが、道路側をどう閉じるかです。
一般的な住宅は、南面や道路面に大きな窓を並べます。明るさは確保できますが、その窓は同時に、外からの視線を招き入れる開口でもあります。結果として、カーテンやブラインドを一日中閉じたまま暮らすことになる。せっかくの大開口が、実質的に壁として使われている家は少なくありません。
私たちは道路側のファサードを、原則として閉じた面として構成します。大きな窓は置かず、縦長のスリット窓や高い位置の窓で、光だけを取り込む。外壁は塗り壁や石、木の格子など、質感で見せる素材を選びます。窓の数を減らすと外観は単調になりそうですが、実際には逆で、開口を絞るほどボリュームの構成と素材の表情が際立ちます。
閉じることは、暗くすることではありません。光の入れ方を、視線とは別の経路で確保するという設計です。

閉じたぶん、内側に開く

道路側を閉じる代わりに、内側には大きく開きます。中庭、坪庭、あるいは奥まった位置のテラス。外から見えない場所に、自分たちだけの景色をつくるという考え方です。
たとえば四方を建物や隣地に囲まれた敷地でも、家の中央に二坪ほどの坪庭を設ければ、リビング、ダイニング、廊下の三方向から同じ庭を見ることができます。場所を変えるたびに、違う見え方をする。面積としては失っているはずなのに、体感の広がりは明らかに増えます。
この構成のもう一つの利点は、カーテンが不要になることです。外から覗かれる心配のない開口には、視線を遮る装置が要りません。窓ガラスがそのまま景色の額縁になり、朝から夜まで開け放しておける。ホテルライクな空間で布や家具の要素が少なく見えるのは、そもそも遮るべき視線がないからでもあります。
坪庭には、あらかじめ照明を仕込んでおきます。日が暮れて外が暗くなると、ガラスは鏡に変わって室内を映してしまう。外の植栽や壁を照らしておけば、夜になっても景色が続きます。

視線の先には、必ず受け止めるものを置く

視線の設計とは、遮ることだけを指すのではありません。視線が向かう先に何を置くかを決めることでもあります。
廊下の突き当たり、階段を上りきった正面、玄関を入って最初に目が向く壁。こうした場所を私たちは視線の着地点と呼び、必ず何かを用意します。石やタイルを張った一面、絵を掛けるための余白、あるいは壁を洗うように当てた間接照明。逆に、そこに扉やスイッチプレート、分電盤が来ることは避けます。
着地点が決まっていない家は、視線が行き場を失って落ち着きません。目に入るものは多いのに、見るべきものがない状態です。ホテルライクな家は、この逆をやっています。見えるものの数は少なく、その一つひとつに意味がある。
ここでのポイントは、着地点をつくりすぎないことです。見せ場を各部屋に用意すると、今度は家全体が騒がしくなります。目安として、家全体で三つか四つ。それ以外の面は、あえて何もない壁として残します。余白が残っているからこそ、用意した一面が効きます。

立ったときではなく、座ったときの目線で決める

もう一つ、実務で重要なのが目線の高さです。
打ち合わせは立った状態で行われ、模型やパースも立った目線で確認します。けれども実際の暮らしで最も長い時間を過ごすのは、ソファやダイニングチェアに座った姿勢です。座ったときの目線は、立っているときよりも大きく下がります。
この差は決定的です。立って見れば庭が見えていた窓が、座ると隣家の二階と空しか見えない。ダイニングから中庭が見えるはずだったのに、実際にはテラスの手すりで切れている。よくある失敗です。
そこで私たちは、主要な居場所ごとに、座った高さで視界を確認します。窓の下端をどこまで下げるか、庭の植栽をどの高さに揃えるか、造作カウンターの奥行きをどこで止めるか。数センチの調整で見えるものが変わるため、この検討は図面が固まる前に済ませておく必要があります。
逆に、見せたくないものは目線より上か下へ追いやります。エアコン、配線、収納の取っ手。視界の中心から外すだけで、生活感は驚くほど目立たなくなります。

隣家との関係は、法規も含めて先に整理する

視線の話には、法的な側面もあります。民法第235条第1項は、境界線から1メートル未満の距離において他人の宅地を見通すことのできる窓または縁側(ベランダを含む)を設ける者は、目隠しを付けなければならないと定めています。この距離は、窓または縁側の最も隣地に近い点から垂直線によって境界線に至るまでを測定して算出するとされています(同条第2項)。
京都の市街地のように敷地に余裕のない条件では、この規定に関わる位置へ窓を計画してしまうことが起こり得ます。着工後に指摘を受けて目隠しを後から付けると、外観にも室内の光にも影響が出ます。
ですから、隣地に面する開口は設計の初期に整理します。境界からの距離を確認したうえで、ガラスを型ガラスに変える、窓の位置を上げて視線が抜けないようにする、あるいは木の格子やルーバーを外観の要素として最初から組み込む。後から足した目隠しは付属品に見えますが、最初から計画された格子は、ファサードのデザインそのものになります。
なお、この規定と異なる慣習がある地域では、その慣習が優先される旨も民法に定められています(第236条)。個別の敷地条件については、設計段階でご相談ください。

まとめ:視線を設計すると、家は静かになる

ホテルライクな家をつくるうえで、視線の設計は素材や照明と並ぶ柱です。むしろ順番としては、視線が先に来ます。どこから何が見えるかが決まってはじめて、どの面に石を張るか、どこを照らすかが決まるからです。
道路側は閉じ、内側に開く。視線の着地点をいくつか用意し、それ以外は静かな壁として残す。座った目線で確認し、隣地との関係は法規も含めて先に整理しておく。特別な技術ではありませんが、いずれも設計の早い段階でしか決められないことばかりです。
LIQでは、京都の限られた敷地条件のなかで、こうした視線のコントロールを一邸ごとに検討しています。図面の段階で「ここに座ったとき、この窓からこれが見えます」までお伝えできることが、私たちの設計の進め方です。

敷地図をお持ちいただければ、どの方向にどんな視線が抜けるかを、その場で一緒に検討できます。

個別相談会・資料請求はこちら

Back to listリストに戻る

LINE デジタルカタログ 住まいの無料相談会