ホテルライクな家は素材で決まる。石と木の使い分け
打ち合わせで最初に盛り上がるのは、たいてい素材の話です。玄関には石を張りたい、リビングの壁には木を使いたい、キッチンまわりはタイルで。憧れの写真を持ち寄って、一つひとつ選んでいく時間は、家づくりのなかでもとくに楽しい時間だと思います。
ただ、この進め方には落とし穴があります。個別に選んだ素材は、一つの空間に集めた途端、互いを打ち消し合うからです。ホテルのロビーや客室が上質に見えるのは、使われている素材が高価だからではありません。素材の種類を絞り、どこに何を使うかを空間全体で決めているからです。ここでは、京都で注文住宅を設計するなかで実践している、石と木の使い分けの考え方をまとめます。
素材を足すほど、空間は安く見える
玄関に石、リビングにアクセントクロス、階段室に木、洗面にモザイクタイル。それぞれは悪くない選択でも、家全体を通して見ると素材が七つも八つも並ぶことになります。視線が動くたびに主役が入れ替わり、どこを見ればいいのか分からない空間になる。これが「高いものを使ったのに、なぜか安っぽい」と感じる家の正体です。
ホテルライクの原則は足し算ではなく引き算です。私たちは一邸あたりの主要素材を、石またはタイル一種類、木一種類、塗り壁一種類、床材一種類の四つ程度に絞ることを基本にしています。種類を減らすぶん、一つひとつの質を上げる。同じ予算でも、素材を絞ったほうが確実に上質に見えます。
石は一面だけに絞る。主役を決める
石やタイルは、空間に重心と格を与える素材です。ただし面積を増やすほど効果が上がるわけではありません。むしろ広く使うと圧迫感が出て、ホテルというより商業施設のような印象になります。
私たちが石を使うのは、家のなかで見せ場になる場所に限ります。玄関を開けて正面に見える壁、リビングのテレビ背面、吹き抜けの立ち上がり、洗面のカウンターまわり。この四か所のうち、その家でいちばん人の視線が集まるところを一か所か二か所選び、そこだけを石にする。残りは塗り壁に任せます。
選ぶときは、色よりも表情を見てください。同じグレーの石でも、表面を磨いたものと割肌のままのものでは、光が当たったときの見え方がまったく違います。ホテルライクな空間で効くのは、光を受けて陰影が出るマットな質感のほうです。

木は空間に温度を与える役。樹種と色味は揃える
石だけで構成された空間は、静かではありますが冷たくなります。そこに温度を与えるのが木の役割です。天井、造作家具、軒裏、建具。人の手が触れる場所や、視界に長く入る面に木を使うと、空間の印象が一段やわらかくなります。
ここで守っていただきたいのが、一つの空間のなかで樹種と色味を揃えることです。床はオーク、造作はウォールナット、建具はメープルというように別々に選ぶと、木目と色の違いが目についてまとまりません。オークならオーク、ウォールナットならウォールナットで通し、濃淡はごくわずかに留める。木の面が一つの素材として読めるようになると、空間は途端に落ち着きます。
また、木目の強さも意匠のうちです。天井など大きな面に使うときは、木目のおとなしい柾目の材を選ぶと、面としての静けさが保てます。

石と木の境目に、設計の質が出る
石と木を組み合わせるとき、いちばん差が出るのは面積比でも色合わせでもなく、二つの素材が出会う部分の納まりです。
石壁の前に木のカウンターやベンチを浮かせるとき、石とカウンターを直接ぶつけず、数センチの隙間、いわゆるシャドーギャップを取る。それだけで二つの素材がそれぞれ独立した面として見え、輪郭がはっきりします。逆に、隙間なく突き付けると、施工誤差がそのまま線の乱れとして出てしまいます。
もう一つは、水平ラインを揃えることです。石の目地、カウンターの天端、窓の下端、造作収納の上端。これらの高さがバラバラだと、素材がどれだけ良くても空間は雑然として見えます。図面の段階でこれらを一本の線に揃えておく。ホテルの客室が整って見える理由の多くは、この線の統一にあります。
光を当てて初めて、石は石らしくなる
石やタイルを採用したのに思ったほど良く見えない。その原因の多くは、素材ではなく照明にあります。天井のダウンライトで部屋全体を均一に明るくすると、石の凹凸に影ができず、写真で見た質感が出ません。
石の表情を出すには、面に沿って光を流すことです。壁の上部に照明を仕込んで上から下へ光を落とすコーニス照明を使うと、石の凹凸が陰影として浮かび上がります。木の造作なら、天板の下や棚板の下に光源を隠し、木の面を下から照らす。器具そのものは見せません。
そしてもう一つ大切なのが、明るくしない場所をつくることです。すべてを均一に照らすと、素材の良さは平坦になって消えてしまいます。照らす面と暗く残す面を意図的に分ける。ホテルライクな空間が夕方から夜にかけていちばん美しく見えるのは、この陰影の設計が効いてくる時間だからです。
外観にも、同じルールを持ち込む
石と木の使い分けは、室内だけの話ではありません。外観でも考え方は同じです。
道路側の壁面すべてを石張りにすると重くなりすぎます。よく用いるのは、塗り壁のボリュームを主体としながら、玄関まわりの一面だけを石にして、その隣に木の格子や板張りの面を添える構成です。素材は三つまで。石が重心をつくり、木が温度を与え、塗り壁が余白として二つをつなぐ。この関係は室内とまったく同じです。
仕上げに、石の面を軒下や足元からの照明で照らすと、日が落ちてからのファサードが完成します。昼は素材の質感で、夜は光で見せる。外観を昼の見え方だけで決めないことが、長く飽きのこない家につながります。

火気まわりなど、法規で決まる部分もある
素材選びには、意匠だけでなく法規が関わる部分もあります。代表的なのがキッチンです。コンロなどの火気使用設備がある部屋は、建築基準法の内装制限の対象となり、壁と天井の仕上げに制限がかかります。
ただし国土交通省の告示により、火源のまわりに不燃材料や遮熱の措置を講じることを条件として、それ以外の部分に木材を使える緩和の規定が設けられています。木の天井をキッチンまで連続させたいといった希望も、条件を整理すれば実現できる場合があります。適用の可否は住宅の規模や設備の種類によって変わりますので、必ず設計者に確認しながら進めてください。これは2026年時点の基準に基づく話であり、制度は改正されることがあります。
こうした制約は、デザインの敵ではありません。どこに何を使えるかが早い段階で分かれば、その条件のなかで最も良い構成を考えられます。
素材を決める順番
最後に、実際に進めるときの順番をお伝えします。
一つめは、家のなかで石を使う場所を先に一か所決めること。ここが決まると、他の場所には石を使わないという判断ができるようになります。二つめは、木の樹種を一つ決めて、床、造作、建具をその樹種で通すこと。三つめは、残りの壁と天井を塗り壁などのニュートラルな仕上げで統一すること。四つめが照明で、石の面と木の面をどう照らすかを、素材が決まった後に一緒に設計することです。
この順番を守ると、途中でカタログを見て気が変わっても、判断の基準がぶれません。逆に、部屋ごとに好きな素材を選んでから全体を調整しようとすると、まとめるのはかなり難しくなります。
まとめ
ホテルライクな家は、高価な素材でつくるものではありません。石は一面だけに絞って重心をつくり、木は樹種を揃えて温度を与え、塗り壁が余白としてその二つをつなぐ。そして光が、素材の表情を引き出す。この関係が成立していれば、素材の点数が少なくても空間は上質に見えます。
逆に言えば、素材選びは早い段階で全体の方針を決めておくべき項目です。図面がある程度固まってから一つずつ選んでいくと、どうしても部分最適の集合になってしまいます。間取りを考えるのと同じタイミングで、どこを見せ場にするかを決めておく。それが、完成したときに空気の変わる家をつくるいちばんの近道です。
素材の選び方や見せ場のつくり方は、実際の空間で見ていただくのがいちばん分かりやすいと思います。京都で家づくりをお考えの方は、個別相談会でお気軽にご相談ください。
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