ホテルライクなリビング。テレビ壁と家具配置の設計術
リビングが落ち着かないのは、家具のせいではありません
引き渡しを終えたお客様から、しばらくしてこんなご相談をいただくことがあります。「家具を入れたら、なんだか思っていた雰囲気と違う」。
多くの場合、家具そのものに問題はありません。ソファもテーブルも、時間をかけて選ばれた良いものです。それでも落ち着かないのは、家具を受け止める側の設計——壁の面、配線の行き先、光の当たり方——が決まらないまま、あとから家具だけが置かれたからです。
リビングは家の中でいちばん長く過ごす場所であり、来客が最初に通される場所でもあります。にもかかわらず、家具やテレビの位置は「引き渡し前に考えればいい」と後回しにされがちです。実際には、その多くが図面の段階でしか決められません。壁の下地も、コンセントの高さも、照明の仕込みも、工事が始まってからでは動かせません。
京都で注文住宅を設計している立場から、リビングをホテルライクに仕上げるために、家具より先に決めておくことをお話しします。
ホテルライクなリビングは、正面の一面から決まります
ホテルの客室やラウンジに入ったとき、私たちは無意識にある一点を見ています。ベッドの背面、あるいはソファの正面にある、素材の違う一面です。
住宅でも同じ構造をつくることができます。リビングに座ったときに正面となる一面——多くの場合はテレビが付く壁——に、他の壁とは違う素材を使う。大判の石やタイル、あるいは左官で厚みを感じさせる仕上げ。ここだけを主役にして、残りの壁は静かな白や淡いグレーで抑える。それだけで、空間には「見るべき方向」が生まれます。
四方の壁をすべて白い塗り壁にして、床を明るい木にする。清潔ですが、差がないところに格は生まれません。
主役の一面は、部屋にひとつで十分です。ふたつ、みっつと増やすと、今度はどこを見ればいいのか分からなくなります。素材を足すのではなく、一面に集中させる。これが最初の判断です。
この一面は、面積も大切です。腰から上だけを貼るのではなく、床から天井まで、壁の端から端まで通す。途中で切ると「装飾」に見え、通しきると壁そのものになります。
テレビは「置く」ものではなく「消す」ものと考えます
リビングの静けさを保つうえで、いちばん扱いが難しいのがテレビです。黒く大きな長方形で、必ずコードを伴い、周辺機器を連れてきます。何もしなければ、部屋の主役はテレビになります。
私たちがまずご提案するのは、壁掛けにして、配線を壁の中に通してしまうことです。テレビ本体の背面まで空配管(CD管)を立ち上げ、電源とアンテナ、HDMIを床下や壁内で送る。テレビの下にコードが一本も垂れていない状態をつくると、それだけで壁面は静かになります。
ただしこれは、下地が入っていなければできません。壁掛け金具は石膏ボードだけでは保持できず、テレビの重量に応じた合板下地や補強材を、あらかじめその位置に仕込んでおく必要があります。壁の仕上げが石やタイルなら、なおさら後からの穴あけはききません。「どのくらいの大きさのテレビを、床から何ミリの高さに付けるか」を、壁の下地を組む前に決めておく必要があるということです。
レコーダーやゲーム機、ルーターといった機器の行き先も同時に決めます。テレビ下の造作カウンターに扉付きで納める、あるいは隣室の収納にまとめて置く。機器が見えなければ、コンセントの数も放熱の隙間も、扉の中で解決できます。
テレビを消すとは、我慢することではありません。見たいときには見え、見ていないときには壁に還る。その状態を図面の段階でつくっておくということです。

ソファの向きは、テレビではなく庭で決めます
多くの間取り図では、ソファはテレビの正面に置かれています。テレビを見るための部屋、という前提です。
私たちは、もう少し違う置き方をご提案することがあります。ソファを庭や中庭に向けて配置し、テレビはその視線の軸から少しずらした壁に付ける。座ったときにまず目に入るのは、窓の向こうの緑や、光の当たった壁になります。テレビは、見たいときに首を少し向ければ見える位置にあれば十分です。
この配置には実利もあります。窓に正対して座ると昼間の画面に映り込みが出ますが、窓とテレビを直交させれば避けられます。
ソファの背中をどこに預けるかも大切です。背後が広く空いていると、人は落ち着きません。壁を背にする、あるいは背面に低い造作収納を置いて、背中を受け止める面をつくる。ホテルのラウンジで居心地が良いのは、たいてい背中が守られている席です。
そして、ソファと壁の間、ソファとテーブルの間には、通れるだけの余白を確保します。目安として、人が正面を向いて通る動線には六百ミリ以上、ソファとローテーブルの間には三百〜四百ミリ程度。ここを詰めると、家具は入っても暮らしは窮屈になります。家具の寸法は、置けるかどうかではなく、そのまわりを歩けるかどうかで決めます。
家具は低く、高さを揃える。床が見えるほど部屋は広く見えます
同じ広さのリビングでも、広く静かに見える部屋と、雑然と狭く見える部屋があります。分けているのは面積ではなく、家具の高さのばらつきです。
ホテルのラウンジでは、家具はどれも低く、高さが揃っています。背の高い棚がなく、視線が部屋の奥まで一直線に抜ける。住宅でも同じです。ソファ、テレビ台、サイドテーブルの高さをできるだけ揃え、背の高い収納は置かない。必要なら壁と一体の造作にして、壁の一部に見せてしまう。
床が見える面積が広いほど、部屋は広く感じられます。脚のある家具を選ぶ、あるいは壁付けの造作を床から浮かせる(フロートさせる)と、家具の下に床が続いて見え、同じ寸法でも軽く見えます。テレビ下の造作カウンターを浮かせて、その足元に間接照明を入れるのは、この効果を最も分かりやすく使える場所です。
色数も絞ります。床の木、主役の壁の素材、ファブリックの三つ程度に抑え、それ以外は白か、床に近い色に寄せる。上質に見える部屋は、素材が高級なのではなく、色数が少ないのです。
リビングは、昼と夜で二度完成させます
リビングの光は、昼と夜でまったく別のものになります。この二つは、別々に設計する必要があります。
昼は、自然光が主役です。大きな開口から光を入れ、床と壁に反射させて部屋全体を明るく保つ。このとき、光が直接差し込む面と、少し陰になる面の両方を残します。均一に明るいだけの部屋は、明るくはあっても表情がありません。なお、住宅の居室には採光のための開口部の大きさが建築基準法で定められており、原則として床面積の七分の一以上とされています(一定の照明設備を設けた場合には十分の一以上まで緩和されます/2026年9月時点)。ただし体感を決めるのは、この最低基準ではなく、どこからどう光を入れるかのほうです。
夜は、天井の照明を落とし、壁と天井を照らす光に切り替えます。天井を照らすコーブ照明、壁を上から流すコーニス照明、造作の足元を照らすライン照明。器具は見えず、照らされた面の反射光だけが部屋を満たします。天井に等間隔でダウンライトを並べただけの部屋とは、まったく違う空間になります。
そして、夜の窓は鏡になります。外が暗いと、室内の照明や自分の姿が映り込む。だからこそ、窓の外に何かを一つ照らしておく価値があります。坪庭の木を下から照らす、塀の面を照らす。窓の向こうに光る対象があると、映り込みは弱まり、視線は外へ抜けます。
この切り替えのために、リビングの照明は必ず回路を分けます。全部点ける、全部消すの二択にしないこと。夜に使う回路だけを残せるようにしておくと、同じ部屋が夜にもう一度完成します。

生活感は、収納の量ではなく「見える面」の問題です
「生活感が出ないようにしたい」というご要望は、ほぼすべてのお客様からいただきます。そして多くの場合、その答えとして収納量を増やそうとされます。
しかし生活感をつくっているのは、収納が足りないことではなく、物が視界に入る面が多いことです。同じ量でも、扉の中にあれば見えず、オープン棚にあれば見えます。
そこで、リビングでは「見える面」を意識的に減らします。造作収納は扉付きのフラットな面にして、取っ手を出さない。手掛けを掘り込むか押して開く仕組みにすると、壁の面が途切れず、壁と同じ色で仕上げれば収納は壁として消えます。
リビングに滞留しやすいのは、リモコン、書類、子どものもの、充電中の機器です。これらの居場所を、リビングの中に一か所だけつくっておく。テレビ下の造作の一段を「置き場」と決めて扉で隠す、あるいはリビングの隅に浅い収納を設ける。行き先が決まっていないから、物はテーブルの上に残ります。
エアコンも、生活感の大きな要素です。壁の高い位置に白い箱が付くと、そこに視線が行きます。あらかじめ設置位置を決め、主役の壁ではない面に配置する、あるいは天井付近に納めて格子で隠す。ここも、配管ルートを含めて図面段階の判断になります。
まとめ:リビングは、決める順番で決まります
ホテルライクなリビングをつくるために、特別に高価な素材が必要なわけではありません。必要なのは、決める順番です。
はじめに、座ったときの正面となる一面を決め、そこに素材を集中させる。次に、テレビの大きさと高さを決めて下地と配線を仕込む。ソファは庭に向け、家具は高さを揃えて低く抑える。昼の自然光と夜の建築化照明を別々に設計し、回路を分ける。そして、物が見える面を減らす。
この順番のうち、家具を買う段階でできるのは最後のいくつかだけです。壁の素材も、下地も、配線も、照明の仕込みも、図面が固まる前にしか決められません。逆に言えば、そこさえ決めておけば、家具は後からゆっくり選ぶことができます。
なお、居室の天井の高さは建築基準法施行令で二・一メートル以上と定められていますが、実際のリビングでは、天井の高さそのものよりも、その高さの中でどこを照らし、どこに余白を残すかのほうが体感を変えます。数字を上げることが目的ではありません。
LIQでは、京都で注文住宅を手がけるなかで、リビングの家具配置とテレビ壁の納まりを間取りと同時に検討しています。今お持ちの図面があれば、そこにソファとテレビを置いたときに何が見えるかを、一緒に確認することもできます。
リビングの家具配置やテレビ壁の納まりについて、図面を前に具体的にお話しできます。個別のご相談会を承っております。
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