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ホテルライクな廊下。移動する空間が、家の質を決める

ホテルライクな廊下。移動する空間が、家の質を決める

「廊下は無駄」という前提を、一度置いてみる

間取りの打ち合わせが進むと、必ず一度は出てくる言葉があります。「廊下はできるだけ減らしたい」。
気持ちはよく分かります。廊下は居室にならない面積です。同じ坪数を使うなら、リビングを広くしたい、収納を増やしたい。そう考えるのは自然なことです。
ただ、完成した家に入ったときに「なんとなく落ち着かない」と感じる原因の多くも、実はこの部分にあります。玄関を開けた瞬間にリビングが見えてしまう。個室のドアが食卓の横に並んでいる。移動のための空間を削りきった家は、面積の効率は上がっても、空間の切り替わりがなくなります。
ホテルの客室が特別に感じられるのは、部屋そのものが広いからではありません。エレベーターを降りてから扉を開けるまでの、あの静かな廊下を通ってくるからです。移動する空間は、無駄ではなく準備の時間です。

ホテルライクな廊下は、面の少なさでできている

ホテルライクという言葉を、私たちは素材・光・余白・視線・生活感のコントロールという五つの要素で考えています。廊下はこの五つが、いちばん短い距離の中に凝縮される場所です。
実際にホテルの廊下を思い出してみてください。目に入る面が驚くほど少ないはずです。壁、床、天井、そして扉。それだけです。スイッチプレートも、点検口も、飾り棚も、視界に飛び込んでこないように整理されています。
住宅の廊下が雑然として見えるのは、幅が狭いからではありません。見えている面の数が多いからです。壁の色が途中で変わる。巾木の線が走る。ドア枠の色が壁と違う。分電盤が顔の高さにある。ひとつずつは小さなことですが、狭い空間では影響が大きく出ます。
廊下を整えるとは、装飾を足すことではなく、線と面を減らしていく作業です。

幅は「910のモジュール」ではなく、通る寸法で決める

木造住宅では、柱の芯から芯まで910mmという寸法が標準的に使われます。この場合、壁の仕上げが入ったあとに実際に通れる幅は、おおむね780mm前後になります。
この780mmという数字には根拠があります。住宅性能表示制度の高齢者等配慮対策等級では、日常生活空間の廊下について、等級3で有効な幅員780mm以上(柱などが出ている箇所は750mm以上)が求められています。等級5になると850mm以上です(2026年時点)。つまり780mmは、人が普通に通るための最低限として設定された寸法です。
なお、戸建て住宅には、建築基準法上の廊下幅の規定はありません。施行令第119条で幅が定められているのは学校や病院、一定規模以上の共同住宅などで、二階建ての住宅は避難規定の対象外です。法律が決めてくれない以上、幅は設計者と建て主が決めるしかありません。
私たちは、主要な動線になる廊下は有効850〜900mm程度を確保することが多くあります。数字にすればわずか70mmの差ですが、すれ違えるかどうか、家具を運べるかどうかが変わります。この70mmを削って居室に足しても、居室の広さはほとんど体感できません。

突き当たりに、必ず受け止めるものを置く

廊下の印象を決めるのは、幅よりも「突き当たりに何があるか」です。歩いていく方向にあるものは、否応なく目に入り続けます。
いちばん避けたいのは、突き当たりが何もない白い壁で終わることと、トイレのドアで終わることです。前者は空間が痩せて見え、後者は生活の音や気配を意識させます。
置くものは、ひとつで構いません。縦長のスリット窓から光を落とす。坪庭に面した横長の窓を切る。壁の一面だけを石やタイルに替えて、上から光を当てる。廊下の先に景色か光があるだけで、その通路は移動のための空間から、通り抜けたくなる空間に変わります。
廊下は居室ではないため、採光のための窓を設ける法的な義務はありません。だからこそ暗いまま放置されがちですが、ここに一つ窓を入れるかどうかで、廊下の見え方は大きく変わります。

光は器具を並べず、床と壁を洗う

廊下の照明で最も避けたいのは、天井にダウンライトを等間隔で並べることです。歩くとき、視界の上のほうに光源が次々と入ってきます。明るさは足りていても、落ち着きません。
私たちがよく使うのは、壁の下端に沿わせた足元のライン照明と、天井際から壁面を洗うコーニス照明です。器具そのものは見えず、照らされた壁と床だけが浮かび上がります。廊下は上から照らすのではなく、面を光らせると考えたほうがうまくいきます。
色温度は2700K前後の電球色で揃えます。廊下だけ色味が違うと、通るたびに切り替わりを感じてしまいます。加えて、夜中に通ることを考えるなら、調光で絞れるようにしておくか、足元灯だけが点く回路を分けておくと快適です。
そしてもう一つ。昼の廊下は、自然光で明るく抜けているのが理想です。照明で暗さを補うのではなく、まず窓と建具で光を通す。ホテルライクは、暗い空間のことではありません。

建具の高さを揃えると、廊下は一本の線になる

廊下は、扉が最も密集する場所です。ここで空間の印象を大きく左右するのが、建具の高さと納まりです。
一般的な既製ドアは高さ2000mm前後で、天井までの間に壁が少し残ります。この残った壁と、ドア枠の線が、廊下の壁面に細かい分割をつくります。天井高いっぱいの建具にして、枠を見せない納まりにすると、この分割が消えます。扉の面と壁の面が同じ高さで揃い、廊下が一本の線として通ります。
さらに、扉の色を壁と揃えるか、木の面としてまとめるかを決めます。廊下に面する扉が四枚あるなら、四枚とも同じ考え方で処理します。一枚だけ既製品の白い扉が混ざると、そこだけが目立ちます。
細かい話に聞こえるかもしれませんが、ホテルの廊下が静かに見える理由は、ほぼこの一点に集約されています。

廊下に、少しだけ機能を持たせる

廊下を「通るだけの場所」にしないもうひとつの方法が、薄い機能を重ねることです。
壁厚を利用した奥行き200mm程度の本棚。洗面室の手前に設けた、幅の広がりを利用したカウンター。階段脇の壁面につくった、奥行き450mmの造作収納。いずれも居室を削らずに、廊下の面積を二重に使う考え方です。
ここで大切なのは、機能を足しても面の数を増やさないことです。収納は扉付きにして壁と同じ面で納める。棚を見せるなら、置くものの高さまで含めて設計する。廊下に「ものが出ている場所」をつくると、その瞬間に空気が緩みます。
それでも廊下を短くしたい場合は、削る前に順番を確認してください。廊下が長くなる原因は、多くの場合、玄関の位置と階段の位置にあります。この二つを動かすと、廊下は自然に短くなります。廊下だけを削ろうとすると、動線が居室を横切るようになり、かえって落ち着かない家になります。

まとめ:廊下は削るものではなく、決めるもの

廊下は、家の中でいちばん短時間しか滞在しない場所です。それでも、一日に何度も通ります。玄関からリビングへ、寝室から洗面へ。その一瞬の連続が、住み心地の印象をつくっています。
幅を決め、突き当たりに何を置くかを決め、光の当て方を決め、建具の高さを揃える。やることは多くありません。しかし、この四つが決まっている家と決まっていない家では、完成後の空気がまったく違います。
京都の敷地は、決して広いとは言えないケースがほとんどです。限られた面積の中で、どこを削り、どこを残すのか。その判断は、図面と敷地を一緒に見なければ出せません。私たちは、ホテルライクな住まいを、面積ではなく設計の順番でつくると考えています。

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