階段は「上下をつなぐ通路」ではなく、間取りの骨格です
プランの打ち合わせで階段の話が出てくるのは、決まって後半です。LDKの広さ、水回りの配置、収納。優先順位の高いものから決めていくと、階段は「残った場所」に落ち着く。そうやって決まった図面を拝見することは、少なくありません。
ただ、私たちが設計をするとき、階段はかなり早い段階で位置を決めます。一階と二階の両方の平面に同時に効いてくる、数少ない要素だからです。ここを動かせば、二階の廊下の長さも一階のLDKの形も連動して変わってしまう。後から調整の効かない、間取りの骨格にあたる部分です。
京都の注文住宅で、階段をどういう順番で決めているのか。位置、形式、寸法、素材、そして光。順を追ってお話しします。
階段の位置が、家全体の面積効率を決めている
一般的な木造二階建ての階段は、踊場を含めておよそ2畳から3畳分の面積を占めます。これが一階と二階の両方で必要になるため、延床30坪の家であれば、階段とその上下の空間だけで全体の1割前後を使う計算になります。
この1割をどこに置くかで、残り9割の使いやすさが決まります。階段を家の中央に寄せれば二階の各室への動線が短くなり、廊下という「通るだけの面積」を圧縮できます。一方で家の中央は、本来なら最も明るく使いたい場所でもある。この矛盾をどう解くかが設計の勘所です。
京都の市街地では、間口が狭く奥行きのある敷地に建てることが多くなります。こうした敷地で階段を中央に置くと一階の奥まで光が届きにくくなり、北側の外壁沿いに寄せれば南面をすべて居室に使える代わりに二階の廊下が長くなる。どちらが正解ということはありません。敷地の形と隣家の位置、そのご家族が一日のどの時間をどこで過ごすのか。それらを重ねたうえで決めていきます。
リビング階段にするか、ホールから上がるか
階段の位置とあわせて決めるのが、どこから階段に取り付くかという形式です。大きくは、LDKの中を通って上がるリビング階段と、玄関ホールから直接上がる独立階段の二つに分かれます。
リビング階段が支持される理由は明快です。家族が二階へ上がるときに必ずLDKを通るため、顔を合わせる機会が増える。加えて、階段の立ち上がりがLDKの中に現れることで天井の高い部分と低い部分の対比が生まれ、空間に奥行きが出ます。
一方で、LDKと二階が一つの空間としてつながるということは、空気も音もにおいも一続きになるということです。私たちがリビング階段を採用する場合は、階段の上がり口に建具を仕込んでおくか、断熱・気密の性能を上げて全体を一つの空間として空調する設計に寄せるか、どちらかを最初に決めます。玄関ホールから上がる独立階段は、来客時に二階のプライバシーを守りやすく、在宅で仕事をされるご家庭では今も有力な選択肢です。

法規が定める寸法は、快適さの基準ではありません
階段の寸法には法律上の下限があります。建築基準法施行令第23条では、住宅(共同住宅の共用階段を除く)の階段について、階段および踊場の幅は75センチメートル以上、蹴上げは23センチメートル以下、踏面は15センチメートル以上と定められています。同令第24条では高さ4メートルを超える階段に4メートル以内ごとの踊場が、第25条では高さ1メートルを超える階段に手すりが求められます。
ここで押さえていただきたいのは、これらが「階段として成立するための最低限の線」であって、快適さの基準ではないということです。蹴上げ23センチ・踏面15センチという数字どおりにつくった階段は、法律上は適法ですが、実際に上り下りすると相当に急です。荷物を持って降りるとき、あるいは二十年先を考えたときに、その勾配で暮らし続けられるかは別の話になります。
面積を切り詰めるために階段の勾配を法規の限界まで立てる。これはやろうと思えばできてしまう調整です。だからこそ、階段の寸法をどこに設定しているかは、その設計者が何を大事にしているかがよく表れる部分だと考えています。
勾配は、蹴上げ・踏面・段数の三つで決まる
階段の上りやすさを決めているのは、蹴上げ(一段の高さ)と踏面(足を乗せる奥行き)の組み合わせです。階高が決まっている以上、蹴上げを緩くすれば段数が増え、段数が増えれば階段の占める面積も増える。快適さと面積は、ここで正面からぶつかります。
私たちが住宅の階段を設計するときは、法規の下限からは余裕を取り、蹴上げを19センチ前後、踏面を22センチ前後に置くあたりを一つの目安にしています。そのぶん階段は長くなりますが、上り下りの負担が明らかに変わる範囲です。敷地条件によってこの目安どおりにいかない場合も、どこをどれだけ譲るのかは数字を見ていただいたうえで一緒に決めます。
形式でいえば、直階段は面積効率がよく勾配も一定で上りやすい。折り返し階段は、踊場が転落時の緩衝になるという安全上の利点があります。回り階段は内側の踏面が極端に狭くなるため、踏み外しやすい部分がどこに来るかを意識して割り付けます。図面の上では、階段はただの平行線の集まりに見えます。ただ、その線の間隔一つで、毎日十数回上り下りする体験は変わってきます。
スケルトン階段の開放感と、その代償
蹴込み板をなくし、踏板と骨組みだけで構成するスケルトン階段は、いま最も要望をいただく形式の一つです。階段の向こう側が見えるため視線が抜け、実際の面積以上に広く感じられる。窓からの光が階段で遮られず、下階まで届くという利点もあります。
ただ、この形式にはいくつかの検討事項がついてきます。踏板を支える構造が意匠そのものになるため通常の階段より費用がかかり、階段下に収納やトイレを納めることも難しくなります。そして最も相談が多いのが、空気と音の問題です。蹴込み板がないということは、階段全体が上下階をつなぐ大きな開口として働くということ。暖めた空気は上階へ抜け、生活音も届きやすくなります。小さなお子さまがいらっしゃるご家庭では、踏板の隙間や手すり子の間隔についても検討が必要です。
スケルトン階段をご提案する場合は、まず断熱・気密の性能を確保することを前提にします。上下がつながっていても温度差が生じにくい状態をつくったうえで採用するのであれば、開放感は素直に利点として残ります。性能を詰めないまま形だけを採り入れては、順番が逆になってしまいます。

素材と手すりのディテールが、階段の格を決める
階段は、家のなかで最も手が触れる部位です。手すりの太さ、握ったときの温度、踏板を裸足で踏んだときの質感。視覚以上に、触覚で記憶される場所だと考えています。
踏板は、床材と同じ樹種で揃えるか、あえて質感を変えて階段そのものを見せるか。オークやタモのような明るい木で床から連続させれば空間は穏やかにつながり、ウォールナットのような濃い色で階段だけを浮かび上がらせれば、そこが空間の主役になります。
手すりは、材の選び方以上に納まりで印象が変わります。ブラケットで壁から持ち出すのか、壁の中に掘り込んで納めるのか。細く見せたいからと断面を絞りすぎると、握ったときの安心感が損なわれます。意匠として細く見せる場合でも、握る部分の寸法は落としません。そして忘れられがちなのが階段の裏側です。リビング階段であれば、そこは常にLDKから見えている面になります。上質さは、こうした「見せるつもりのなかった面」の処理に出ます。
階段まわりの光を、どう設計するか
階段は、家のなかで唯一、上下二層分の高さを持つ空間です。この縦の広がりを光でどう扱うかで、家全体の印象が変わります。
最も効果が出やすいのは、階段の上部に窓を取ることです。高い位置から入った光は、階段を伝って一階まで降りてきます。京都の市街地のように隣家が近く、一階の窓から十分な光を取りにくい敷地では、この上からの光が大きな意味を持ちます。道路側のファサードには大きな窓を並べず、光は上から取る。狭小地で多く採用する考え方です。
夜の光も同じくらい大切です。階段全体を天井の照明で均一に照らすと、明るくはなりますが平坦な印象になります。足元のフットライトや壁に沿わせた間接照明で、段の輪郭が陰影で浮かび上がるようにする。安全に必要な明るさを確保しながら、夜のホールが落ち着いた場所になります。ただし吹き抜けと重ねる場合、手の届かない位置に器具を置くと交換時に足場が必要になります。美しさと十年後の手間は、図面の段階で両方確認しておきます。
階段の自由度は、構造の選び方で変わります
ここまで階段の位置や形式についてお話ししてきましたが、そもそもどこまで自由に決められるかは、その家の構造の考え方に左右されます。
一般的な木造軸組工法では、地震に抵抗する耐力壁を建物内にバランスよく配置する必要があります。階段や吹き抜けは床が抜けている部分なので、その周辺には構造上の配慮が要り、結果として「ここには階段を持ってこられない」という制約が生じることがあります。
LIQが採用しているSE構法は、柱と梁を強固に接合するラーメン構造を用いる木造の工法です。耐力壁に依存する度合いが下がるため、大きな吹き抜けと階段を隣り合わせにしたり、階段まわりの壁を減らして視線を通したりといった設計がしやすくなります。すべての建物で構造計算を行うことも、この工法の前提です。階段の位置を「残った場所」ではなく「最初に決める場所」として扱えるかどうかは、工法を決める段階ですでに始まっています。
まとめ:階段から決める、という選び方
階段について、位置、形式、寸法、勾配、素材、光、そして構造との関係を見てきました。共通しているのは、どれも後から変更が効かないという点です。壁紙や照明器具は住み始めてからでも替えられますが、階段の位置と勾配だけは、竣工した瞬間に固定されます。
だからこそ、打ち合わせの早い段階で階段をどう扱うかを話しておく価値があります。毎日十数回、何十年にわたって上り下りする場所です。そこが上りやすく、美しく、朝の光が降りてくる場所であれば、家全体の印象は静かに変わってきます。
LIQでは、京都で家づくりをお考えの方に向けて、間取りの初期段階からご相談いただける機会をご用意しています。図面を前に、階段をどこに置くとどう変わるのかを、実際に線を引きながらお話しします。
間取りの骨格を、最初の一歩から一緒に考えます。
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